エンジン知識

リーン燃焼かEGR燃焼か|熱効率向上にベストな選択は?損失・システムの観点から考察

リーンEGR

各国で環境規制の厳格化が進んでいます。そのため内燃機関であるエンジンの熱効率向上を急ピッチで推進していかなければなりません。そこで現在注目されているのが“リーン燃焼”と呼ばれる技術です。

リーン燃焼は空気過剰率λが1という状態以上の燃焼状態を指しますが、これを量産しているメーカーはごく一部。このリーン燃焼と対照的に用いられるのが、“EGR(排気再循環)燃焼”という技術です。

“リーン燃焼”と“EGR燃焼”
どちらが熱効率向上によりベストな選択なのか、考えてみたいと思います。

そしてこの記事を読み終えると以下のことがわかるようになります。
ぜひ下記を意識して読み進めてください。

  1. リーン燃焼とは何か
  2. EGR燃焼とは何か
  3. どちらがベストな解か

リーン燃焼とは

理論空燃比より空気が多い状態のこと

まず“リーン燃焼”についてご説明します。
“リーン”とはその名の通り“薄い”ということです。
何より薄いのか?というと、“理論的な空気と燃料の混合割合より薄い”ということになります。

理論的な空気と燃料の混合割合を“理論空燃比”といい、その比率は次の通りです。

空気:燃料=14.7:1

また、この理論空燃比より空気が多いか少ないかを表す指標として“空気過剰率(λ)”というものがあります。空気が理論通りの量であればλ=1理論以上ならλ>1理論以下ならλ<1となります。

つまりλ>1のときが、リーン燃焼ということになります。

参考までにλと燃焼状態の関係は以下の通りです。

  • λ >1 リーン燃焼
  • λ =1 ⇒ ストイキ燃焼
  • λ <1 ⇒ リッチ燃焼

リーン燃焼のメリットは?

リーン燃焼は理論空燃比より空気が多い=燃料が少ない状態です。
仮にリーン燃焼のときと、理論空燃比のストイキ燃焼のときで同じ出力が出せたとすると、リーン燃焼の方が少ない燃焼で力を出せているため効率が良いことになります。

つまりリーン燃焼は効率が高く燃費がいいというメリットがあるのです。

なぜリーン燃焼は熱効率向上につながる?

エンジンは、ガソリンや軽油などの燃料を燃やし、車を走らせる駆動力(仕事)を得ます。
この燃料を仕事に変換する効率熱効率と呼びます。

熱効率にも図の通り種類があります。

熱効率

上記で説明した通り、エンジンは燃料を仕事に変換します。
しかし、変換する工程での中で様々なエネルギーロス(損失)が発生します。
ポンプ損失や冷却損失、排気損失、遅れ損失などがそのエネルギーロス(損失)に当たります。
そもそもエンジンの熱効率はとても低いのです。
2020年に発売されるSUBARUのCB18エンジンや、マツダのSKYACTIVE-Xという最新エンジンをもってしても正味熱効率40%程度です。つまり約60%は損失なのです。

そしてリーン燃焼が熱効率向上につながるポイントは二つ。

  • 理論熱効率の向上
  • 冷却損失の減少

✓理論熱効率の向上

まず“理論熱効率”の式について理解しましょう。
理論熱効率は下記の通り“圧縮比”“比熱比”で構成されます。

理論熱効率

比熱とは流体(ガス)の温度を1℃上げるのに必要な熱量を指します。
空気中のO2やN2などの2原子分子は比熱比が高いため、空気をたくさんいれるリーン燃焼は理論熱効率が向上するのです。

✓冷却損失の減少

リーン燃焼の場合、ストイキ燃焼などよりも燃焼温度が低くなるため冷却損失を低減することができます。

冷却損失低減は約60%の損失のうちの25%程度を占める大損失です。その冷却損失を低減するため各自動車会社がしのぎを削って開発しており、その手段として注目されているのがリーン燃焼なのです。

リーン燃焼のデメリットは?

リーン燃焼はずいぶん前から注目されていますが、なかなか実用化に至っていません。
現在リーン燃焼を採用しているエンジンも前項で示したSUBARUのCB18エンジンや、マツダのSKYACTIVE-Xという最新エンジンのみです。トヨタのエンジンもまだ量産していません。

では何故なかなか実用化に至らないのでしょうか?
その大きな理由は以下の通りです。

  • 排気ガス浄化装置(三元触媒)が機能しない
  • システムが複雑で高価になる

✓排気ガス浄化装置(三元触媒)が機能しない

現在一般的に排気ガス浄化装置として用いられているもので三元触媒というものがあります。この触媒は燃焼で発生したNOxなどをキャッチしてくれる部品です。しかしこの触媒には弱点があり、排気ガス中の酸素濃度が高いと浄化作用が機能しなくなるのです。

つまり、リーン燃焼は空気が多くなり、その中には酸素がたくさん含まれているため三元触媒が機能しなくなるのです。

では、SUBARUのCB18エンジンなどはどうしているか?というとNOx限定の触媒をどうやら装備しているようです。
部品が増えるとその分コストが高くなるので、環境のためにはなってもお客様のためになっているかというと怪しいところですね。

✓システムが複雑で高価になる

上記で触媒が増え高価になると記しましたが、それだけではありません。
リーン燃焼というのは空気が多くなり、火が付きにくいという弱点があります。
そのため、火が付くよう様々な装置を設けなければならないのです。

例えば火が付きやすいように高出力型のスパークプラグや、それを制御するシステム。
さらには空気をたくさん入れるために過給装置(ターボチャージャー、スーパーチャージャー)の設置が必要となるでしょう。

また装置だけでなく開発する人の数や時間も通常より増えるでしょうから、会社としてもなかなか進めにくいところはあるでしょう。

リーン燃焼のおさらい

下記4点を覚えておきましょう。
[box03 title="リーン燃焼"]

  1. リーン燃焼=空気が多い
  2. リーン燃焼=理論熱効率向上+損失低減
  3. リーン燃焼=三元触媒機能しない
  4. リーン燃焼=複雑で高価

[/box03]



EGR燃焼とは

排気ガスの再循環

つづいてはEGR燃焼についてです。
EGRとはExhaust Gas Reserculationの略で排気再循環を意味します。
システムとしては下図を参考にしてください。本来吸気工程で入れるはずの空気の中に排気ガスをいれるというシステムになります。

ポンプ損失_EGR

EGRのメリットとは?

EGR燃焼のメリットは以下の通りです。

  • エンジンの暖気効果が高まる
  • ポンプ損失が減少する
  • 冷却損失が減少する

✓エンジンの暖気効果が高まる

エンジンをその日始めて始動するときというのは、エンジンは冷えた状態となっています。
エンジンが冷えている状態というのはいいことがありません。
例えば、エンジンの中に入っているオイルは、エンジンが冷えているとドロドロな状態なためピストンやバルブが摺動する際の機械抵抗(フリクション)となってしまいます。
また排気ガスを浄化する“触媒”という部品は、温かくならないと最大限機能しません。

EGRガスは暖かい空気です。そのEGRガスを吸気工程に戻すと、燃焼するさいのベース温度を上昇させ、排気ガスを高めることができます。このサイクルを繰り返すことで最短時間でエンジンを昇温させることができるのです。

EGRガス投入吸気ガス昇温燃焼温度昇温排気ガス昇温エンジン昇温

✓ポンプ損失が減少する

エンジンは燃焼するために酸素を多く取り込む必要があります。しかしEGRガスを吸気ガスにまぜてしまうと本来入るはずの酸素が入らなくなります。
そうなるとスロットルいう弁が開いて、より多くの酸素を取り込もうとします。このスロットルいう弁は開度が小さいと、注射器の抵抗のようになってしまいます。これをポンプ損失といいます。EGRガスをいれることでポンプ損失を減少させることができるのです。

EGRガス投入吸気ガス中酸素濃度減少スロットル開度大ポンプ損失現象

✓冷却損失が減少する

例えば通常は空気を100いれるとします。そこにEGRガスを10投入すると、空気は90しか入りません。
ストイキ燃焼の場合、空気:燃料=14.7:1のため、空気量が減ると燃料の量も減ります。そのため燃焼で発熱する量も減り、燃焼温度が低下するのです。
燃焼温度が低下すると、エンジンに流れている冷却水との温度差が減少し冷却損失が減少するという仕組みです。

EGRガス投入吸入空気量減少燃料減少(ストイキ燃焼の場合)発熱量低下燃焼温度低下冷却損失減少

EGR燃焼のデメリット

EGR燃焼のデメリットは大きく以下の通りです。

  • 着火性・燃焼安定性低下
  • システムが複雑で高価

✓着火性・燃焼安定性低下

一般的にはEGRガスを投入すると層流燃焼速度というものが低下すると言われています。
層流燃焼速度が低下すると、燃焼室内の空気の速度が低下していしまい火が付きにくくなるのです。

また火が付きにくいのに加え、各気筒ごとやシリンダー内でもEGRガスの濃度にムラが出てしまい着火性や燃焼の安定性にもムラがでてしまうのです。

その結果、出力の低下やエンジンの振動騒音にも影響を及ぼすのです。

✓システムが複雑で高価

リーン燃焼とは少し異なり、EGRの場合は吸気工程へガスを流すためのバイパス経路が必要となります。さらには排気ガスをそのまま流すと高音なので、ガスを冷却させるためのシステムも必要となります。

また、排気ガスを吸気ガスに戻すには排気と吸気の圧力差を活かす必要があるのです。天気と同じで圧力が高いほうから低いほうへ空気(風)が流れていくのと同じです。
そのためにはターボチャージャーを用いて空気を引っ張る必要も出てくるのです。

EGR燃焼振り返り

下記4点を覚えておきましょう。
[box03 title="EGR燃焼"]

  1. EGR燃焼=排気ガスを利用
  2. EGR燃焼=冷却損失・ポンプ損失低減
  3. EGR燃焼=燃焼安定性確保が大変
  4. EGR燃焼=複雑で高価

[/box03]




リーン燃焼とEGR燃焼どちらがベスト?

”リーン燃焼”“EGR燃焼”の項目を横並びで見てみましょう。

◆熱効率向上

リーン燃焼 EGR燃焼
理論熱効率 比熱比増で向上
冷却損失 燃焼温度低下で損失減 燃焼温度低下で損失減
ポンプ損失 スロットル開度大で低下

◆システムの複雑さ

リーン燃焼 EGR燃焼
燃焼関係 過給機必要 過給機必要
着火性強化必要 着火性強化必要
EGRバイパス経路要
触媒 NOx浄化装置要

 

熱効率向上の観点では、どちらも同じような効果があります。
システムの複雑さで言えば、リーン燃焼は追加で触媒が必要、EGRは専用の部品がひつようとなりそれぞれ損得があるように見えます。
しかし、リーン燃焼においてはλ=2以上という領域ではNOxがほとんど発生しないため追加の触媒装置が不要になるという見解もあります。
今後の技術の発展次第では、よりシンプル化できるリーン燃焼が一般化されていくのでしょうか。注目していきたいですね。

さいごに

冒頭に記載した下記項目はわかりましたでしょうか。

  1. リーン燃焼とは何か
  2. EGR燃焼とは何か
  3. どちらがベストな解か

ぜひ理解していただき今後に生かしていただければと思います。
また燃焼について書かれている書籍を掲載しますので参考にしてください。

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