『【エンジンの知識】熱効率って何?~4ストロークの図解を交えて説明~』に続き、熱効率に関してご説明していきたいと思います。
熱効率を上げるアプローチは二つあります。
それは、①熱効率自体を上げるか、②損失を減らすかです。
今回は①熱効率を上げるアプローチに関して書いていきます。
熱効率って実は3種類もある?
熱効率とはどういったものか、まずは仕事である軸トルクから分解してみると以下のような図の通りとなります。
”熱効率”といっても、”正味熱効率”、”図示熱効率”、”理論熱効率”と3つに分かれています。
正味熱効率とは、実際のエンジンの仕事に変換される熱効率のことを指します。
図示熱効率とは下図の通り、4ストロークエンジンのサイクルからなるPV線図(P:圧力、V:容積)の図形の中の面積を指します。
理論熱効率とは、図示熱効率からポンプ損失や冷却損失などを省いた部分を指します。
引用:火花点火機関における圧縮自着火の物理的・化学的過程がノックの生起におよぼす影響(著:松浦勝也 殿)
今回の記事では、図示熱効率の中の理論熱効率を上げるアプローチについてご説明します。
理論熱効率とは?
上の項目でお伝えした通り、理論熱効率とは図示熱効率から損失を引いた、実の効率となります。
この理論熱効率を上げる手段は2つ、『①圧縮比をあげること』、『②比熱比を上げること』です。
その理由は理論熱効率の物理式を見てもらうとわかります。
理論熱効率の物理式は圧縮比と比熱比の二つから成り立っているのです。
圧縮比
圧縮比を上げる手段は?
圧縮比とは、『シリンダー内の空気または混合気が、ピストン上昇によってどれくらい圧縮されるのか』の割合を示す指標で以下のの計算式で表されます。
圧縮比=(燃焼室容積+排気量)÷燃焼室容積
燃焼室容積は下図のオレンジ部を指し、排気量は青色部を指します。
ちなみにですが、排気量2000ccとかいうのは”青色部分”×”気筒数”=”総排気量”(例:500cc×4気筒=2000cc)ということになります。
圧縮比を上げるためには、『(燃焼室容積+排気量)』の値を大きくするか、『燃焼室容積』の値を小さくするかです。現在の主流は、排気量は大きくせずに燃焼室容積を小さくして圧縮比を上げています。
圧縮比を上げることの背反は?
ノッキング
圧縮比をひたすら上げればいいと言うものでもありません。圧縮比を上げることにも限界が実はあるのです。
その原因は”ノッキング”と呼ばれる現象です。
ノッキングとは、燃焼室内の圧力が高まりすぎて意図しないタイミングで爆発してしまう異常燃焼のことを言います。このノッキングの詳細に関しては、まだ未知の部分が多く数多くの機関が研究をしているところです。
ノッキングが仮に発生してしまうと、エンジンは簡単に破壊されてしまい、自動車は動かなくなってしまいます。
ロングストローク化
排気量を変えずに燃焼室容積を小さくするということは、シリンダーを細長くするということになります。これをロングストローク化といい、現在多くの自動車メーカーでこのロングストローク化に取り組んでいます。
ロングストロークにするということは、シリンダーを細長くするということ。細長くするにはエンジンを長くしなければならず、車体の大きさにも影響があるため青天井ではないのです。
比熱比
比熱比を上げる手段は?
もう一度理論熱効率に関しておさらいすると、比熱比κ(カッパー)は圧縮比の乗数となっていて、分母にあります。
つまり、理論熱効率を上げるには比熱比κが大きいほうがいいのです。
比熱比κは燃料が混ざった混合気中の分子に依存します。そして比熱比κを上げるには以下の通り、単原子分子・二原子分子を多く含む混合気である必要があるのです。
燃料には炭素や水素などが組み合わさった多原子分子でできていますが、普通の空気中は皆さんご存知の通り、窒素N2が79%・酸素O2が21%とほとんど二原子分子です。
つまり、比熱比を上げるには、燃料をできるだけ少なくして、燃焼させればいいということになります。
そこで現在各自動車メーカーや大学が取り組んでいるのが、リーンバーン(希薄燃焼)エンジンの開発です。
比熱比を上げる背反は?
リーンバーン
リーンバーンの弱点は、燃焼が安定しない。燃えにくい、着火しにくいということです。そのためうまくパワーが出ず、車として成立しなくなってしまうことがあります。
街乗り運転程度で使用される軽自動車や小型自動車であれば、パワーを捨てて燃費優先!なんてことができますが、SUVなどの大きな車はパワーがないと商品にならないので、パワーと燃費の駆け引きに苦戦していると思われます。
各メーカー、リーンバーンに取り組みながらも、パワーをうまく両立したエンジンを作ってくれることに期待しましょう。
まとめ
・熱効率には3種類(正味・図示・理論熱効率)がある。
・理論熱効率を上げるためには、圧縮比UPと比熱比UPが必要。
以上が今回の記事になります。
次回は図示熱効率向上のアプローチに関して書いていきたいと思います。
ありがとうございました<m(__)m>